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和歌山地方裁判所 昭和47年(ワ)164号 判決

原告

総評全国自動車運輸労働組合

和歌山支部第一運輸分会

右代表者

橋本征規

外九名

右原告ら訴訟代理人

野間友一

外三名

被告

第一運輸株式会社

右代表者

志賀哲一郎

右訴訟代理人

月山桂

外二名

主文

原告らの本件訴を却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告会社の昭和四七年五月一二日の清算結了は無効であることを確認する。

2  昭和四七年五月一二日和歌山市中六七〇番地第一建設興業株式会社会議室において開催の被告会社の臨時株主総会における決算報告書並びに清算結了を承認する旨の決議の無効であることを確認する。

3  訴訟費用は被告の負担とする。〈後略〉

理由

一被告の本案前の抗弁についての判断

1  被告会社の当事者能力について

被告会社は、昭和四七年三月一二日清算を結了し翌一三日に右清算結了登記を了したから、被告会社の法人格は消滅し当事者能力を失つた旨主張するので、この点について職権で調査判断する。〈証拠〉によると、被告会社は原告ら主張の日に清算結了の登記をなしたことが認められる。ところで、会社清算結了の登記は、会社設立登記と異なり、商法一二条所定の商業登記の一般原則による効力を有するにすぎないから、清算結了の事実を公示するに止まり右事実を形成創設する効力を有するものではない。従つて、法定の清算事務が未だ結了していない事実のある限りは、たとえ形式上清算結了の登記がなされても、実質的には該会社の法人格は消滅しないで現に清算中の会社として存続し、訴訟上の当事者能力を有するものと解するを相当とする。そして、清算人の清算事務一つである現務の結了とは、該会社の目的たる業務およびこれに付帯する事務で会社解散当時存在し、かつ、解散後も現存する未了の事務の後始末を付けることをいい、右の現務には解散当時の従業員との間の雇傭契約関係の終了およびこれに関連して派生した紛争解決処理をも含むものと解するを相当とするところ、〈証拠〉によると、右原告らが被告会社の解散当時その従業員であつたこと、右解散に伴い右原告らが被告会社より解雇通知を受けたこと、右解散および解雇の効力をめぐつて原告らと被告会社との間に紛争が生じたこと、右紛争に関連して請求原因3、(2)記載のような右原告ら、被告会社間の保全訴訟が和歌山地方裁判所に係属していることが認められる。ところで、右保全処分は、右原告らが被告会社の従業員であることの仮の地位を定めるとともに、これに基く賃金の仮の支払を被告会社に命ずるものであるから、被告会社は、右原告らの右保全処分申請事件係属により、本案提起前とはいえ、右原告らから財産上の訴求を受けていると同一に解するを相当とするから、被告会社において右保全処分に対し異議申立をなして争つている以上、右争訟事件を完結させ紛争を解決処理することは、被告会社の財産に関する事務ともいうべきものであるから、右は被告会社の清算人がその清算事務として結了すべき現務に属するものというべきである。従つて、右争訟事件が現に裁判所に係属中で未だ完結しておらず右紛争が未解決である以上、右にいう被告会社の清算人の処理すべき現務は未結了というべきであるから、たとえ被告会社が清算事務が結了したとして株主総会を開催し清算結了の登記を了したとしても、これにより被告会社はその法人格が当然に消滅し訴訟上の当事者能力を喪失するものではないものというべきである。(なお、被告会社は、昭和四七年三月一六日頃、右原告らに対し解雇予告手当および退職金を支払うことにより右原告らに対する現務は結了した旨主張するが、右原告らが被告会社による解雇自体の効力を争い被告会社の従業員たる地位の存続を主張して争訟し、被告会社の右金員支払についても賃金の内金として異議を留めてこれを受領している以上、右金員支払をもつて、被告会社の右原告らに対する雇傭契約上の清算事務としての現務が結了したものとみることはできない。)

なお、被告会社解散当時、原告分会が被告会社に対し固有の債権を有していたことは、本件全証拠によるもこれを認めることはできず、また、労働組合たる原告分会は、組合員の右原告らの解雇無効確認、賃金支払請求等の訴訟については、その法律関係である雇傭契約の当事者ではないので、原告分会には右雇傭契約上の右原告らの債権債務について当然には処分権限はないから、原告分会は右原告らの右訴訟について当事者適格がないものというべきである。してみると、原告分会が被告会社を相手方として請求原因3、(1)記載の不動産仮処分を申請したのは被告会社解散後の昭和四七年三月一三日であるから、この点で被告会社と原告分会との間には清算すべき事務は存しないものというべきであるが、しかし、他方、当事者能力の存否は区々分断することなく画一的にこれを決するのが相当であるから、被告会社が、前記認定の理由により、右原告らとの関係で法人格が消滅せず当事者能力が認められる結果、共同原告たる原告分会についても一般的に被告会社の当事者能力が認められることになるものと解するを相当とする。

従つて、被告会社の当事者能力欠缺についての本案前の右抗弁は、理由がないものといわざるを得ない。

2  確認の利益について

被告会社は、原告ら主張の請求の趣旨1について、本件訴は確認の利益を欠く旨主張するので、この点について職権で調査判断する。確認の訴は、原則として、当事者間における現在の権利または法律関係の存否に関するものであつて、これを確認するに法律上の利益のあることを要するところ、原告らが請求の趣旨1で求めている本件訴の内容は、被告会社の昭和四七年五月一二日の「過去」における清算結了という法律行為ないし手続について、「無効」という法的判断の確認を求めるものであるから、その確認の対象が、「現在」の「権利または法律関係」ではないばかりではなく、たとえ判決で当該清算結了の無効を宣言しても、本件当事者間の紛争の直接的な対象である右原告らの解雇をめぐる法律関係が端的に解決処理されるものではないという点で、原告ら主張の請求の趣旨1による本件訴は、確認の対象および利益を欠くものとして却下を免れないものといわざるを得ない(なお、原告らの訴旨を善解し、たとえば、「被告会社の清算結了行為が現在無効であることを確認する。」または「被告会社の清算結了行為が現在未結了であることを確認する。」とか、その結果、「被告会社が清算中の会社として存在することを確認する。」との趣旨に構成しても、前二者は法的判断の確認にすぎず、後者は抽象的な法律事実の確認にすぎないから、前同様の理由により、結局いずれも確認の対象および利益を欠くものというべきである。)。

3  原告らの当事者適格について

被告会社は、原告ら主張の請求の趣旨2について原告らは本件訴の当事者適格を有しない旨主張するので、この点について職権で調査判断する。〈証拠〉によると、被告会社は、昭和四七年五月一二日の臨時株主総会において、当時の清算人亡山口陽三の作成提出した決算報告書並びに清算結了報告を承認する旨の決議がなされたことが認められる。ところで、前記1認定のとおり被告会社の清算人は、その清算事務である現務を未結了のまま右株主総会に右決算報告書を提出して清算結了を報告し、右株主総会はこれを承認する旨の決議をなしたものであるから、右決議はその内容に瑕疵があるものというべきである。しかし、株主総会の決議は社団内部の意思決定にすぎないので、原則として、株主または取締役等を拘束するに止まり、直接会社外の第三者に対して法律関係を生ぜしめるものではないから、通常右第三者は株主総会の決議無効確認の訴の法律上の利益を有するものでなく、第三者が右訴の利益を有するものと認められるのは、右決議が第三者の権利または利益を具体的に侵害し、または、これに直接影響を及ぼす場合に限られるものと解するを相当とするところ、本件のように、被告会社の違法な清算結了行為ないし手続を争う場合には、原告らの権利または利益に直接関係のあるのは前記株主総会の決議自体ではないものというべきである。けだし、商法四二七条一項の決算報告書の承認決議は、清算すべき会社の積極財産の存否の確定と清算人の責任解除をその直接的効果とするものであつて、右決議自体は単に会社内部の意思決定にすぎずこれにより直ちに第三者に法律上の効果を及ぼすものではないし、また、一般にいう清算結了承認決議は、法定のものではなく、通常は右決算報告書の承認決議の前記のような法律上の効果を包括的に表現したにすぎないものであるから、仮に株主総会において右のような決議がなされたとしても、それは単に会社内部の意思決定にすぎずこれにより直ちに第三者に法律上の効果を及ぼすものではないからである。さらに付言するに、右原告らが被告会社の清算結了行為ないし手続の違法無効を主張し、被告会社に対し自己の従業員たる地位ないし賃金支払等を訴求する場合には、当該訴訟において、右訴求に係る債権等の存在が認められるときは、通常、被告会社の清算人の現務は未結了であると解されることになり、被告会社の当事者能力はなお存するものとして右訴求債権等について実体上の判決がなされることになるから、右原告らとしては、右訴訟手続中において、主にその先決問題として被告会社の右清算結了行為ないし手続の違法無効を争えば足りるから、このような方法によらずに、会社内部の意思決定にすぎず、かつ、右清算結了手続の一段階にすぎない右決議自体を特に抽出してその無効確認を求めることは迂遠であり通常その必要はないものというべきである。従つて、原告ら主張の請求の趣旨2による本件訴は、確認の利益がなく当事者適格を欠くものとして却下を免れないものといわざるを得ない。

二結論

以上認定のとおり、原告らの本件訴は、原告らにおいて確認の利益ないし当事者適格を欠くものであるから、爾余の点について判断するまでもなく不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(塩谷雄)

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